76 仙娥瀧

  色深み青ぎる瀧壺つくづくと立ちて
      吾が見る波のゆるぎを、
  紫に黒み苔むす大巖のまほらを
      斷ちてどよもす瀧つ瀬、
              伊藤左千夫
荒川の清流に添ひ、長潭橋より仙娥瀧まで約四粁の間が、御嶽昇仙峽として絶勝の地帶で、造化の神のなせる神巧鬼鑿とも言ふべきこの自然は、あらゆる文士、畫家の筆を超越してゐることは、すでに※[#「ごんべん+巳」、読みは「き」または「しる」]した通りである。瀧は三段になり高さ三十餘米、水煙濠々奔瀬の響雷の如く雄大豪壯、男性美を遺憾なく發揮してゐる。瀧の附近眩岩より御嶽パノラマに登り兜岩、八王寺權現、三聲返し等の勝地を尋ね、盆地と連山と富嶽を望みながら、所謂下道を下山することも面白い。

(望月道三)


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