74 長潭橋と天神平

御嶽は天下の名勝として、遠くは九州の耶馬溪に比すべく、殊に畏も大正十一年 今上天皇陛下、攝政宮にあらせられた御時其の行啓を賜はる。奇岩怪石の聳立する所、清流碧潭の奔逸する所、實に神斧鬼鑿甲州山水の精華と稱すべく、準國立公園のナムバーワンに數へられてゐる。
版畫は甲府より自動車で約三十分、和田峠を越へて二時間、昇仙峽の第一歩に架せられた鐵筋コンクリートの近代味豐な長潭橋で、よく自然美に調和してゐる。下の流は人も知る長潭の清潭である。橋の右側は天神平と稱し、休憩所、土産物の賣店、駐車場等がある。夏は滿山の緑を、秋は燃えるやうな紅葉を、青ガラスのやうな水は、飛游するヤマメの銀鱗とともに反映させて、動くが如く又動かざるが如く流れてゐる。遠景に見ゆる山又山は仙境の山々、これに連る奧御嶽の靈峰は、水晶の産地として有名である。

(尾澤 恒)


前頁  次頁