69 富士川の※[#「吏」の「一+口」の部分が「日」になったもの、読みは「ひき」]

鐘が鳴ります身延の鐘が 早瀬富士川あの日暮頃
合す音頭の曳綱船に 肩も碎けと飛ぶしぶき。
身延詣は端舟と決つてゐ[# 原本では「る」となっている]たが、それも飛行艇、自動車、電車と何時しか代へられてしまひ「船頭行くかや富士川下り、唄で流すよ十八里」と言つた樣子は余り見られない。それでも白帆を上げて曳かれつゝ上る舟を時たま見ることがあり、竹や材木を組んだ筏の下るのを見ることもある。
富士身延線はこの左岸を走り、山水の繪卷物そつくりな景觀を車窓より見る事が出來る。沿岸の勝地としては靈山身延、信玄公の隱し湯と稱せられた、下部温泉、甲州名産雨畑硯の産地硯島、和紙の名産地西島、市川等があり、對岸の古關村丸畑は木喰上人の誕生地として有名である。

(瀧澤忠三)


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