どんど焼きは日本の国民的行事、そして世界の共有文化遺産

    小正月行事「どんど焼き」の全国・国際調査集計報告【2024年(令和6年)版】

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2024/3/6 更新
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 〇2024年の小正月行事は4年ぶり平常開催へ復帰する動き
 新型コロナウイルス禍のため、中止、縮小と多大な影響を被っていた全国の小正月行事は、2024年からほぼコロナ禍以前の形へと、4年ぶりに平常開催に復帰したところが目立っています。新型コロナウイルスの感染法上の分類が昨年2023年5月から、季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げられ、感染症対策が緩和されたことを受けての動きです。
 一方で行事開催を見送ってきたことによる空白期間の長期化で、全国各地の住民が受け継いできた伝統のノウハウが忘れられたり、さらに住民の少子高齢化により、行事の担い手がいなくなり、コロナ禍がきっかけとなり、行事そのものの廃絶に追い込まれている事例も見受けられました。
 1000年以上の歴史をもち、日本3大奇祭といわれる岩手県奥州市の黒石寺(こくせきじ)の伝統行事「蘇民祭(そみんさい)」が今年2月17日の4年ぶり開催を最後に、2025年からは執り行わないことが決まりました。主催者の黒石寺は「関係者の高齢化と担い手不足によって祭りの維持が困難になった」と発表しました。
 その中で、新たな動きとして、山梨県甲府市では県立大学の学生らが地域社会でのフィールドワークとして、担い手の不足で継続が困難になった小正月行事どんど焼きの開催に協力し、カラフルなおもしろまゆ玉団子の開発やマシュマロ焼きなどの提供で子どもたちの人気を集めました。
 福島県双葉郡広野町では、小正月行事の酉(とり)小屋と現代アートのコラボに国内外のアーティストが参加しました。同町は交流人口を増やすのを目的に、アートによるまちづくりを進めており、その一環として「アーティスト・イン・レジデンス」の企画に応じたドイツと山形県在住の作家2人が、伝統行事「酉小屋」に合わせて作品を展示し、1月8日の夜明け前に雪の積もった田んぼで焚き上げられました。
 こうした動きは、時代に合わせた手法を取り入れて、伝統文化を守り、地域振興を図る試みで、今後全国に広まることが期待されます。

   一方、読売新聞オンラインによると、元日の能登半島地震で被災した集落では正月、小正月の伝統行事はほぼ中止においこまれています。ユネスコの無形文化遺産で、節分の2月3日に予定されていた能登の伝統行事「アマメハギ」が地震の影響で中止となりました。石川県能登町と輪島市に伝わる行事で、神が家々を巡って新春を祝い、地域の災厄を払う。能登町では秋吉地区など4集落に受け継がれ、節分に鬼のお面や蓑みのを身につけた小中学生が集落の家を回り、人々の怠惰を戒める内容です。
 今年は被災した家も多く、4集落全てが行事を取りやめた。各集落を束ねる秋吉地区アマメハギ保存会の会長は「こんな時だからこそ行事をやって悪魔に『出て行け』と言いたいが、さすがにやれんわ」と取材記者に語ったということです。
 また、北陸地方の小正月行事火祭りでは、元日の能登半島地震から間もないこともあり、早期の震災復興や災害のない一年への祈りを込めてお焚き上げが行われていました。

 2024年の小正月行事「どんど焼き」日本全国・国際調査集計一覧のデータ更新では、長野県木曽郡上松町(あげまつまち)で4年ぶりに開催された小正月行事「お日待ち」、宮崎県東臼杵郡美郷町(みさとちょう)の神門(みかど)神社では、1300年前に滅亡した百済から逃れた王族が美郷などの地に移り住んだ伝説を受け継ぐ「師走祭り」。長野県松本市の中央商店街で行われた「塩取り合戦」などの情報を新たに採録しました。
 海外では北マケドニアでユリウス暦の新年に開催されるベブチャニ・カーニバル(Vevchani carnival)などを採録しました。既存の行事データも随時、補足情報を更新しています。
 上松町の「お日待ち」は男衆が今年一年の無病息災や五穀豊穣などを祈りながら、ひもみという古式に則り火おこしをする伝統行事で、神火を各家庭に持ち帰るというデジ研の小正月行事調査では上松町だけの貴重な行事です。
 美郷町の「師走祭り」は唐・新羅の連合軍に敗れた百済の王族禎嘉(ていか)王と長男の福智(ふくち)王が宮崎に亡命したという伝説に基づく。王族の父子が年に一度神門神社で再開し、古式に則り旧暦正月を過ごすという古代ロマンに満ちた、燎原の火のように燃え盛るスケールの大きな行事です。
 また松本市の「塩取り合戦」は越後・上杉謙信、甲斐・武田信玄の川中島決戦にちなんで綱引きで勝敗を決する独自の恒例行事です。
 北マケドニアのベブチャニ・カーニバルは、日本のナマハゲと同様の仮面を付けてシャギー(ふさふさ)な衣装で仮装する行事ですが、村人は年齢制限がなく、誰でも恐ろしげな悪魔や思い思いのキャラクターの仮面をつけて参加できるのが特色です。人々の変身願望を満たして村の通りを練り歩く伝統行事で、最後にマスクを焚き上げて打ち上げとなります。
 その他、沖縄粟国島の伝統行事「マースヤー」、沖縄宮古島の旧二十日正月祭(パツカショウガツ)と獅子のクイチャー踊り。熊本県阿蘇市の阿蘇神社「火振り」、京都福知山の鬼をお多福などに変身させる三鬼打ち神事などを採録しました  ...続きは「2024年版日本・世界調査データ一覧」のページを御覧ください。(2024年3月11日更新)

 〇コロナ禍の中、小正月行事の復活の動き目立つ
 2023年の小正月を祝う恒例行事の開催が各地域で明暗が分かれています。新型コロナの感染が続いていますが、今年は3年ぶりに行動制限のない年末年始となりました。これを受けて、コロナ第8波の感染が拡大している状況もある中ですが、地域によって3年ぶりに行事の復活を決断したところ、中止を継続するところと、判断が分かれています。
 国の重要無形民俗文化財で、1600年以上の歴史を誇る福岡県久留米市の大善寺玉垂宮『鬼夜』が3年ぶりに復活しました。1月7日夜...(続きは「新着トピックス」のページへ)(2023年1月20日更新)

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小正月行事「どんど焼き」日本全国・世界調査の概要 調査データの利用のご案内

 特定非営利活動法人・地域資料デジタル化研究会(以下、デジ研)は、2003年(平成15年)より20年以上にわたり、全国の正月の風物詩ともなっている「どんど焼き」を中心とした小正月行事の実施状況を継続調査し、その成果を本サイトで公開しています。
 調査対象は新聞社・放送局など報道機関や自治体のWEB版など信頼性の高いサイトに掲載された記事を情報源としております。収集した行事データから5W1H原則により、事実関係を抽出、整理分析、保存、公開する「デジタル・キュレーション(digital curation)」という画期的なIT手法を採用しております。
 さらに2014(平成26)年調査により、世界の各地で日本のどんど焼きと類似した新年、新春を祝う火祭り行事が実施されていることが判明したため、調査範囲を海外の報道機関などのWEB版に拡大し、以降国際規模で「新年・新春を祝う火祭りと関連する行事の実施状況調査プロジェクト」として、毎年の調査研究を継続しております。
  世界の民俗文化行事である「どんど焼き等新年・新春を祝う火祭り」に関して、キュレーション成果データの全面公開により、関心ある人ならば誰でも、世界規模の調査比較研究が可能になったことは画期的といってよいでしょう。

<本サイトの記事・データの利用について:小正月行事「どんど焼き」の全国・国際調査集計報告サイトの公開データの引用は商用目的を除き、自由です。著作権法のルールに従って活用してください。出典を明らかにすることで許諾は不要です。データの加工も自由です。出典は[NPO地域資料デジタル化研究会・小正月行事どんど焼き全国・国際調査]でお願いいたします。商用利用を希望される場合は、文末にあるコンタクトフォームからお問い合わせください。>

日本と世界のどんど焼き、関連行事調査報告の構成

 この調査報告サイトの構成は以下のように5部構成となっております。

  1. 「小正月行事「どんど焼き」全国・世界調査」HOME このページ
  2. 新着トピックス 小正月行事をはじめ世界の新年新春を迎える行事の話題
  3. 考察編 日本の小正月行事と火祭りに関連する世界各国の行事を比較分析
  4. 投稿写真 本サイトに寄せられた投稿写真を紹介
  5. 世界調査データ一覧 国内の市町村、そして世界中から収集されたおよそ800件の小正月行事や関連する世界行事の事例を表形式で一覧。


日本と世界のどんど焼き、関連行事調査結果一覧表はこちらをクリック

あなたのまちの小正月行事が掲載されていますか、ご確認ください。訂正したいデータがあれば、ご連絡をいただけるとうれしいです。

【小正月行事「どんど焼き」全国・世界調査の要約】

1.どんど焼きは日本の国民行事、ユーラシア大陸共有の民衆文化行事


 デジ研の20年間にわたる継続調査により、全都道府県の市町村の、さらに単位集落(地域コミュニティ)ごとに、小正月「どんど焼き」などの火祭りほか関連行事の実施状況を一覧表にまとめることが出来ました。デジ研の調べた限りでは、全国市町村の集落レベルで小正月行事の実施状況を一覧にまとめたのは国内では初めて。民俗学的にも画期的な調査となりました。
 調査結果では、全国規模の事象比較が可能となり、日本の小正月行事の全体像を初めて解明することができました。この調査により、従来の民俗学的にはほぼ定説とされていた「小正月行事火祭り行事の起源は平安時代の宮中行事三毬杖(さぎちょう)である」という説がほぼ誤りであったことが明らかになりました。(その詳細は後述)

   集計結果の分析により、小正月の火祭り行事は、国内の全都道府県で集落を単位として実施されており、日本の国民的行事であること、またその名称は、北海道から沖縄まで、ほぼ全国共通で「どんど焼き」と呼ばれています。
 しかし、地域によっては、関西、中国で「とんど焼き」、京都・滋賀・岐阜、愛知、北陸周辺で「左義長」、東北では「どんと焼き」、長野・山梨・群馬・埼玉・神奈川では「道祖神祭」、九州では「鬼火焚き」、「ほんけんぎょう」などと呼ばれています。

 さらに、2014年にスタートした国際調査によって、どんど焼きなどの一連の小正月行事は、日本独自の民俗行事ではないことが判明しました。韓国、中国、インド、イランなどアジア、イタリア、英国、ロシア、スウェーデンなどヨーロッパの各地で、類似の民俗火祭り行事が行われていることが明らかになったのです。国内外で再録された行事データは2024年版でおよそ900件となりました。

   採録されたデータの分析によると、各国の火祭り行事は、(1)集落を単位とした地域コミュニティの行事であり、(2)冬から春へと年の変わり目に浄化された新春新年を迎えるため、(3)地域に災いをもたらす鬼や悪魔、厄災を払うため、(3)人々は家々に一年の幸せや平安をもたらすために街を練り歩き、(4)クライマックスには伐採された竹、木や枝、わらを広場や畑などに積み上げて燃やし、(5)この1年の健康、豊作・大漁、商売繁盛(=地域社会の持続可能な発展)を祈願して(6)火を囲んで酒食をともにする-
 以上の6点の祭事のかたちや趣旨が、民族、言語、宗教、文化、国境の壁を超えて共通していることが各国の行事データの比較による明らかになりました。また燃え上がる火に人々の願いをかなえる浄化の力があると信じられている-ことも共通していました。

   本調査により、小正月行事「どんど焼き」は住民生活の基礎的な地域単位である「集落」を基盤とする日本の国民的行事であるばかりでなく、アジアから中東、欧州までの各地で、地域コミュニティが新年・新春を迎え、この一年の豊かな実りや幸せを祈り、予祝する火祭り行事として同じように行われていることが実地データにより確認できました。すなわち、どんど焼きとは「地域コミュニティが火の浄化の力によって新年・新春を予祝するユーラシア大陸共通の民俗文化行事」であることが分かったのです。
   この調査結果は、これまでの国内の小正月行事に関する民俗文化研究の定説「小正月の火祭り行事は左義長といい、宮中で三毬杖を焼いた行事が起源である。どんど焼き、とんど焼きなどともいう」を根本から覆すものとなりました。これは「木を見て森を見ず」の例えのとおりでした。
 日本の山里に暮らす人々の祈りは、ユーラシア大陸各地の人々の祈りと、民族や国境の壁を超えて、直接つながっていたのです。全く予想外の驚くべき調査結果となりました。
 私たちはこの調査研究結果を世界の人々と共有するため、すべての調査データを本サイトで公開することとしました。

 

2.日本のどんど焼きの特色について

 日本のどんど焼きは小正月の1月15日前日の14日夜を中心に全国各地、集落単位で火祭り行事が行われています。多くの集落でどんど焼きの神火による浄化の力で、集落の人々の1年間の災いを払い、この1年の農林漁業の豊作や豊漁、商売繁盛、家内安全、無病息災、子孫繁栄を祈願しています。併せて門松、しめ縄などの正月飾りを焚き上げ、正月行事の締めくくりとしています。日程的には、国民の祝日である成人の日が1月15日であったため、14日夜の火祭りは日程的に都合が良かったのです。
 しかし、ハッピーマンデー制度により、成人の日が1月の第2月曜日となったため、どんど焼きを小正月に近い連休中に行うところもあり、開催日程はばらけてきています。九州などでは7日正月として6,7日に行うところもありました。
 祭事では青竹を柱に稲わらや杉、檜、松などの枝で小屋を作ったり、あるいは円錐状に積み上げてやぐらや塔を作ったりして、住民が持ち寄った門松、しめ縄などの正月飾りや古札、ダルマなどの縁起物を一緒に燃やします。
 さらに「どんどの火で高く舞い上がれば習字が上達する」と言って、書初めを一緒に燃やす風習も全国的にみられます。
 どんど焼きでは食べ物の楽しみもあります。神火の炎が収まったところで、繭玉だんご、餅、あるいはみかん、漁村ではスルメ、コンブ、九州ではサツマイモなどを木の枝や竹竿に巻き付けた針金の先に刺して、真っ赤になった熾(お)き火で焼いて食べると「風邪をひかない、この一年を健康で過ごせる」という風習も全国各地でほぼ共通して行われています。

3.本来のどんど焼きは、年初の満月と神火に一年の幸せを祈る春の祭典


 調査結果によると、日本の小正月行事どんど焼きは本来、明治の改暦以前には旧暦の小正月(立春後の最初の満月の夜)に行われていました。すなわち、どんど焼きとはその年の最初の満月、そして神火に1年の幸せを祈る「新春の祭典」だったのです。
 さらに調査結果によると、世界各地の新春の到来を祝う火祭り行事でも、人々が共通して、この一年の「農林漁業の豊穣・豊作・豊漁」「商売繁盛」「厄災払い・悪魔払い」「家内安全」「無病息災」「子孫繁栄」などを祈願しています。
 これらの集落の人々による「共同祈願」の意味を分析すると
「この1年のコミュニティの繁栄(集落の豊作豊漁、商売繁盛と防災)」
「この1年の住民の健康(無病息災、家内安全)」
さらに「コミュニティの明日を担う生命の再生(家々の子宝授与と集落の子孫繁栄)」
という3つの重層的な祈りが捧げられています。
 つまり、新春を迎える火祭り行事の本質は、自分たちの集落そして子孫の持続可能な繁栄への切実な祈りにあります。

   従来のどんど焼きの意味を説明する通説では「小正月の火祭りは、家々を来訪した歳神様を、正月飾りを燃やした煙とともに見送り、正月行事の締めくくりとする行事」と言われてきました。
 この通説は暦法の変遷により、大正月、小正月と2度も正月を祝わなければならないなかで、大正月の飾りもの、縁起物を小正月の火祭りで炊き上げれば都合がよいという事情から生まれたつじつま合わせの可能性があります。なぜならば、どんど焼きは、望正月である小正月1月15日の前夜に行われているので、本来は迎え火であるはずです。ところが、正月が始まる前に歳神様を送り返してしまったのでは、行事の趣旨と矛盾してしまうからですが、2つの行事の折り合いをつける庶民の知恵といえるかもしれません。

   本調査では2016(平成28)年版において、日本の小正月行事の現代的な意義付けをこめて、「小正月行事は地域住民が集落の持続可能な発展を願い、コミュニティの繁栄と生命の再生への祈りを儀礼化した地域文化遺産」と定義いたしました。
 この定義により、日本の小正月行事は国連が提唱する「SDGs」のシンボル行事となる可能性が大きいことが分かりました。詳細を次項に示します。

4.小正月行事どんど焼きは国連SDGsを先取りした“世界民俗文化遺産”


 本調査では、日本をはじめ世界各地の新春を迎える火祭り行事は、国連が推進する「持続可能な開発のための2030アジェンダ(持続可能な開発目標SDGsを記載)」と大きな関連があることを指摘しなければなりません。
  2016年3月21日、国際ノールーズ・デーの日、国連の潘基文(バン・ギムン)事務総長は「『持続可能な開発のための2030アジェンダ』最初の年にあたり、イランなど中央アジア各国の春分元日の新年行事である「ノウルーズ」に関連付けて次のように声明を発表しました。

「『持続可能な開発のための2030アジェンダ』最初の年にあたって、国連は、古代からの伝統であり、現代的な関連性がある『ノウルーズ』を祝います。ノウルーズは、よりよい未来への集団の旅に誰一人取り残さないという国際社会の決意を強化するための機会となるものです。」(出典:United Nations News Centre公式サイト https://news.un.org/en/story/2016/03/524962-nowruz-opportunity-bolster-un-goal-leave-no-one-behind-road-sustainable-future 

 2030アジェンダ(SDGs)に先立って、国連総会は2010年に「ノウルーズ国際デー」を正式に承認しています。総会では、ノウルーズは、世代間や家族間の相互尊重と平和と連帯、良好な隣人関係の理想に基づいて、文化的な多様性と人々や異なるコミュニティ間の間の絆を強化する上で重要な役割を果たしている、と評価したうえで、「ノウルーズを祝うということは、自然と調和した生命の肯定、建設的な労働と自然の再生サイクルとの間の不可分の関係の認識、そして自然の生命の源に対する配慮と敬意のある態度を意味する」と認定しました。総会決議では「希望と生命の再生」という、ノウルーズのメッセージを世界に拡大すべきとしています。(出典:https://www.un.org/en/observances/international-nowruz-day )

 上記の国連の潘基文事務総長が「ノウルーズ」に寄せた声明は、日本のどんど焼きに込められた祈りが持つ本質的な意味について、重要な示唆をもたらしています。
 本会の国際調査では、日本の小正月行事そして世界の新春を迎える火祭り行事は、国連総会が認定したノウルーズと同じ「世代間や家族間の相互尊重と平和と連帯、そして和解と隣人愛という価値観」に基づいて「希望と生命の再生へのメッセージ」を共有していることが明らかです。
 その観点からみると、国連総会がノウルーズをSDGsの”シンボル行事”とするのであれば、日本の小正月火祭り行事そして世界の新春火祭り行事は、同じ価値を持った「国連SDGsの趣旨を先取りした古代からの伝統である“世界民俗文化遺産”」ということができます。

 日本のどんど焼きは、閉ざされた田舎の土俗の風習でなく、時代の最先端にあります。世界各国の人々が、ともに持続可能な社会への祈りを共有し、さらに行事を通じて世界の人々が文化的な多様性と人々や異なるコミュニティ間の間の絆を強化する機会であることを確認し、ともに祝うことが、世界平和にもつながる道です。それがどんど焼きの現代的な意義であると言えます。

5.オニ・仮装来訪神行事もユーラシア大陸共通の民俗文化行事


   本調査ではさらに、新年正月の仮装来訪神行事(ナマハゲ、アマハゲ、スネカ、獅子舞など)についても日本の独自文化ではなく、ヨーロッパ・アジア各地で行われている仮装精霊の来訪行事(クランプス、ブショー、クケリ、ビファーナなど)と類似の行事であり、どんど焼きと合わせて「仮装来訪神行事も新年、新春を祝うためのユーラシア大陸共通の民俗文化行事」として、古代と現在をつなぐ「世界的な文化遺産」であることが確認できました。このことは、ユネスコの類似の無形文化遺産を個別に登録する現在の仕組みに重大な疑問が生じる結果をもたらしています。(詳細は後述)

6.DONDOYAKI One Prayer, One World (どんど焼きの祈りで世界は一つに~世界で共通のこころとかたち)


 以上の調査結果は私たちの当初の想像を超える驚くべきものとなりました。日本国内の山深い里の閉ざされた独自の民俗行事だと思われていたことが、実は海を越えて、“ユーラシア大陸各地の地域コミュニティの民俗行事”と共通の「こころとかたち」をもって共有されているということを意味しているのです。

   さらに、現代のテロと暴力、不寛容に満ちた世界情勢のなかで、世界の人々が、国家、民族、宗教の壁を越えて、新年新春の火祭り行事を通じて、「地域コミュニティの繁栄と生命の再生、そして平和と幸福の祈り」を潜在的な共通価値として共有しています。
 どんど焼きで確認されたのは「DONDOYAKI One Prayer One World (どんど焼きの祈りで世界は一つに」というテーマです。「どうか、ずっと豊かで平和な世の中が続きますように。みんなが幸せでありますように」-それが世界のどんど焼き火祭りの共通の祈りです。  このことは、「世界のどんど焼きの祈りにこそ、国家、民族、宗教の壁を越えて、人類の和解へ解決の糸口が見つかる可能性がある」と私たちは提起いたします。

 私たちは、この調査結果が日本そして世界の民俗文化研究の新たな議論を巻き起こすための基礎データとして活用されるよう希望いたします。(根拠となるデータは本報告の後半に一覧表として掲載)
 

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【日本と世界の小正月行事「どんど焼き」調査結果の中間報告について】

 私たちは、継続中の本調査2024年(令和6年)における中間報告として、以下の10項目に集約いたしました。  

(1)日本の小正月火祭り行事はほぼ「どんど焼き」と呼ばれる

 本調査によって、小正月の火祭り行事は、国内の北海道から沖縄までの全都道府県で実施されている日本の国民行事であることが判明いたしました。その名称は全国でほぼ「どんど焼き」と呼ばれ、そのなかで関西地方では「とんど焼き」、東北地方では「どんと焼き」、長野、山梨で「道祖神祭」、京都、滋賀、北陸などでは「さぎちょう」、九州で「鬼火たき」とも呼ばれています。調査では小正月の火祭り行事の呼び名は30種以上あることが確認できました。(分析データの詳細は「考察篇」を参照してください)

 本調査によると、小正月行事は、新年元旦である大正月の行事を終えて、この1年の豊作(防災)、健康、子孫繁栄を願う、集落(地域コミュニティ)を単位とした一連の祈り(予祝)の行事であり、そのクライマックスとなる火祭り行事が「どんど焼き」と呼ばれています。
 小正月行事の起源ははっきりしませんが、中国では道教の行事として、旧暦正月15日、7月15日、10月15日をそれぞれ上元節、中元節、下元節として祭祀が行われています。特に1月15日は正月最初の満月の日であり、元宵節(げんしょうせつ)として灯篭を飾って盛大に祝う風習があります。日本の小正月は、この元宵節の影響を受けている可能性があります。
 どんど焼きの実施時期は全国共通で、ほぼ1月14日から15日にかけて実施されています。しかし、九州では七日正月として、6日ないし7日のところもありました。
 ただし、1月15日の成人の日が1月の第2月曜日に移され、連休とされるようになった影響でどんど焼きは、小正月にこだわることなく、住民が参加しやすいように「新成人の日」の前の休日に行われるようになった地域が多く、実施日は各地でばらけてきています。しかし、秋田県などの例では、明治以前の旧暦の伝統を守って旧暦小正月行事を盛大に祝う地域もあり、人気の高い観光イベントとなってます。

(2)小正月行事の主役は子どもたち

 全国的に小正月行事の主役は、中学生以下の子どもたちが担っていることが通例となっています。子どもたちは、神の使いとなって焚き火行事である「どんど焼き」をクライマックスとする、この1年の招福、予祝、厄払いなどの一連の行事を担っています。
 どんど焼きに関連する行事は全国で繭玉だんご作り、もち花づくりが共通して行われています。繭玉だんごは江戸時代の幕末から明治にかけて日本に莫大な外貨をもたらし文明開化の原動力となった養蚕・製糸産業の繁栄を年初に予祝する風習の名残りと考えられます。
 それ以外にも、地域によって、火振り、地蔵ころがし、梵天飾り、おこもり、嫁つつき、鳥追い歌、成木責め、獅子舞、御神木立てなど様々な農業予祝に由来する風習があり、子どもたちが中心となって、それぞれの集落のこの一年の招福、厄払いを行っています。
 全国の地域コミュニティでは、子どもと大人が小正月行事の開催のために役割分担がなされており、行事を通じて子どもたちは地域コミュニティへの帰属意識と住民の連帯感、地域の誇りを培う機会となっています。また小正月行事を通じて、地域の人々の結びつきや世代を超えた老若男女の住民が相互理解と交流を深めています。

 

(3)小正月行事の祈りは、集落と子孫の持続可能な繁栄を願う

 小正月の祈りとは、明治以前の旧暦の農耕社会の伝統を引き継いだものです。旧暦時代の本来の小正月行事は、立春新年を迎えて最初の満月の日(望正月)に行われていました。望正月は新暦の二月から三月上旬にあたり、野も山も春の陽気にあふれ、啓蟄の候ともなります。つまり、農作業を始める節目が望正月だったのです。その節目に当たって、この一年の「五穀豊穣(豊漁)」「商売繁盛」「家内安全」「無病息災」「子宝授け・子孫繁栄」などを祈願する伝統(予祝)が、全国的でほぼ共通して現代まで継承されてきました。
 特にどんど焼きで繭玉団子を焼いて食べる全国的な風習は、幕末から明治、大正、昭和と日本に外貨をもたらす基幹産業であった養蚕・製糸業の繁栄を祈る風習の名残りといえます。また東北地方の太平洋岸では、東日本大震災の後、「震災復興」を小正月行事で祈ることが共通して行われています。

   小正月行事の本質は
 (1)「この1年の集落の繁栄(五穀豊穣、豊漁、商売繁盛と防災)」
 (2)「この1年の住民の健康(無病息災)」
 (3)「この1年の集落(コミュニティ)の明日を担う生命の再生(子宝授けと子孫繁栄)」
 -という3つの重層的な祈りが込められています。この3つの祈りを子どもから大人までの世代を超えて,さらに地域の住民が共有することでコミュニティ全体の世代と隣人同士の絆(きずな)を深めながら、祭事が進行しています。また、書初めを燃やして、習字の上達を願う風習も全国で共通しています。

 小正月行事の現代的な意義は、自分たちの集落と子孫の持続可能な繁栄への切実な祈りにあります。その祈りを住民が「神火」に託してともに行うことで地域コミュニティの住民がお互いのきずなを確認する行事が「どんど焼き」と呼ばれています。どんなに科学技術が進歩しても、人類は気象災害から逃れることが出来ない以上、人事を尽くしてさらに祈ることは、非科学的とは言えないものです。

 この祈願のこころは、地域社会の持続性維持に何が必要であるかを的確にとらえており、少子高齢化に直面する現代日本の最も切実な課題を先取りしているといえます。しかも、小正月の日を期して、全国各地で焚き火を囲み、一つの祈りを捧げます。調査から集約しますと、
「この一年も家族が元気に暮らせますように、農林漁業が豊かな実りをもたらし、商工業が繁盛しますように、そしてみんなが幸せに暮らせますように」
 -本調査で明らかになった小正月行事の祈りは家族の幸せとともに、地域全体、さらに天下太平(世界が平和でありますように)へと社会全体へ広がっているのが特徴です。小正月を期して、国民がこころを一つにして捧げる祈りは、きっと大きな力となるに違いありません。

   ただし、都市部においては住民相互の疎遠化傾向により、どんど焼きが自宅のしめ飾りや古札などを持ち寄る焚き上げ行事となり、正月行事の締めくくりと受け止められている傾向がうかがえます。

 

(4)関東甲信越などでは道祖神信仰と結びつき

 神奈川県など関東、山梨・長野・新潟の甲信越地方、ならびに甲信越に連なる静岡県などでは、小正月行事の火祭りを「道祖神祭」と呼んでいる事例が多数確認され、どんど焼きと道祖神信仰の強い結びつきが明らかになりました。特に神奈川、山梨、長野でその結びつきが強く出ています。

 道祖神は集落の路傍に祭られる石神で、丸石、陰陽石、男女双体を刻んだ石碑、道祖神と文字を刻んだ石碑などが祭られています。その信仰は集落外からの災いの侵入を防ぐ防塞(防災)の神、岐(クナド)の神であり、子孫繁栄、健康、交通安全、家内安全などの神として信仰されています。上記の(3)に示される小正月の祈りを、がっちりと受け止める「村の守り神」としての位置づけがなされています。

 

(5)日本のどんど焼き、来訪神行事はユーラシア大陸各地の共通民俗文化行事

 本調査により、日本の小正月行事である「どんど焼きの焚き火」による豊作祈願や厄払い、獅子やオニなどの仮装来訪神による厄払い・悪魔払い、収穫年占いなどの新年行事は、日本ばかりでなく、ユーラシア大陸各地で、新年・新春を迎える民衆の行事として、共通して行われていることが明らかになりました。(分析データの詳細は「考察篇」を参照してください)
 特に、韓国では、本来の旧暦小正月火祭り行事の伝統を守り、日本のどんど焼きと類似の集落農耕儀礼である「テボルム・タルジプ焼き」が行われていることが確認されました。興味深いのはテボルムが旧暦小正月に行われる獅子舞、綱引き、竿立て、虫追い火振りなど一連の行事であり、クライマックスに「新春の初めての満月の夜の火祭り」としてタルジプ焼きが行われていることです。韓国各地で人々は一年の豊穣と健康、幸せを満月と神火に祈っています。

 日本の江戸時代に行われていた小正月火祭りどんど焼きの形態と韓国のタルジプ焼き行事との類似性には驚くばかりです。旧暦の日本では韓国と同じように新春の満月とどんどの神火に祈りを捧げていたことは間違いなく、獅子舞、綱引き、竿立て、虫追い火振りなどの関連行事も類似しているのです。
 どんど焼きの起源を探る上でさらに世界の類似行事と比較調査が必要になっています。その背景に火の神の存在が示唆されています。
 その一つとして、中国雲南省、四川省では新年の平安と五穀豊穣、農業繁栄を願って火把節(フゥオバチェ、たいまつ祭り)が盛大に開催されています。人々は焚き火を囲んで、歌い、踊り、この1年の幸せを火神に祈っています。
 また、イタリアの新年農耕儀礼の火祭り「エピファニー・ピニャルル」では、焚き火を燃やしてこの1年の豊穣を光の神・火の神に祈願しています(古代ケルト文化が起源とされる)。さらに英国の「インボルグ火祭り」「ベルテーン」、スウェーデンの新春祝祭「バルボリ焼き」では、燃え上がる「焚き火」に、この1年の健康や幸せを祈願しています。
 同様に寒い国であるロシアでも新春祝祭として「マスレニツァ」が行われ、人々は木の枝を積んだやぐらに「冬の案山子」(女性のわら人形)を載せて燃やし、冬の終わりと春の到来を祝います。以上に共通するのは“火”による浄化の力です。
 暑い国のイランなど中央アジアでも春分を元日とする祝祭「ノウルーズ」(古代ササン朝ペルシャ文化が起源とされる)の「チャハールシャンベ・スーリー」では焚き火に一年の健康を祈願し、インドの新年祝祭ローリ(Lohri)祭りでは、パンジャブ州ほか全国各地で盛大な焚き火で、小麦の豊作祈願と寒い冬の終わり、そして新年と春(夏)の到来を祝い、一年の幸福を祈願していることが分かりました。この風習の背景にあるのは古代ペルシャの拝火教ゾロアスターの存在です。

 日本の新年来訪神行事である「ナマハゲ」「アマハゲ」「スネカ」などについても、同じ内容の新年仮装行事「クランプス」「ブショー」「クケリ」「ビファーナ」など鬼や魔女に仮装した来訪神(精霊)行事が欧州各国で広く行われていることも明らかになりました。この新年のオニ行事はインドネシアでも「オゴオゴ」として行われています。

 以上の調査結果により、新春を祝い一年の豊穣を願う火祭り、厄払いのオニ行事など新年行事は、ユーラシア大陸の西端の英国、スウェーデンから欧州、ロシア、イランやインドを経て東端の、朝鮮半島、日本まで、各地で共通して行われていることが確認できました。
 各国の民衆は、焚き火に(キリスト教の教えとは異なる)神聖な自然神を見出し、生命の再生とこの一年の動植物の繁殖と豊穣を願い、同じ祈りを捧げていることは、驚きべきことです。具体的なデータの裏付けにより、ユーラシア大陸の新年行事の全容が明らかになったことは、本調査の成果として強調できることであります。

(6)小正月火祭り行事の「左義長起源説」はほぼ誤り 火祭りの起源は謎だらけ

 これまで日本国内では、小正月火祭り行事の起源について以下の通説が流布されています。
 「左義長(さぎちょう)は新年に行われる火祭り行事のことをいい、平安時代に宮中で行われていた三毬杖(左義長)が起源である。三毬杖は清涼殿の東庭で、青竹を束ね立て、毬打3個を結び、これに扇子・短冊・吉書などを添え、謡いはやしつつ焼いた。どんど焼きとも呼ばれる」
 この通説は、主要な辞書、百科事典に記載されるほか、ウィキペディア(Wikipedia)など、インターネット上の日本語WEBサイトで、広くコピー流用されています。博物館などの学術機関でも左義長起源説が支持されています。インターネットによって、この“三毬杖・左義長起源説”が拡散されている現状にあります。

   一例では、国内で大きな権威がある国史大辞典によると、左義長さぎちょうの項目で、
「小正月に行われる火祭り行事。三毬杖・三毬打・三鞠打・三木張などとも書き、爆竹にこの訓をあてた例もある。打毬は正月のめでたい遊戯とされ、これに使う毬杖(ぎっちょう)を祝儀物として贈る風習があった。その破損した毬杖を陰陽師が集めて焼くことが行われ、これが左義長の起源として説かれている。」
「(左義長は一種の火行事で)宮中では清涼殿東庭で、十五日と十八日の両日行われた。十五日を「御吉書の三毬杖」ともいい、天皇が吉書初めに書いた書初めをこの時に焼く。三毬杖は青竹を束ねて立て、これに吉書・扇子・短冊などを結びつける。御吉書を硯蓋に入れて勾当内侍が御簾の下からさし出し、蔵人が受けて修理職に渡し、さらに牛飼童がこれを三毬杖につける。御前の燭台の火を移して点火し燃え上がると、牛飼・仕丁らが「とうどやとうど」とはやす。終ると燃えさしの竹二本を蔵人から献上する」
「左義長は(宮中から)武家・民間にも広く流行し、トンド・三九郎焼・サイトウヤキ・御幣焼(おんべやき)などと称し、現在でも各地方に子供組を中心とした小正月の火祭り行事として盛んに行われている」(ジャパンナレッジによる)

 ところが、本調査結果によると、韓国ほかアジア・ヨーロッパのユーラシア大陸各地で新年火祭りとしてのどんど焼きと類似の行事が盛大に行われていることが明らかになり、「どんど焼きは宮中行事が起源である日本固有の、独自の民俗行事」ということは困難になりました。
 以上に加えて、新年にあたって天下泰平、五穀豊穣、家内安全、災難消除を祈願する日本最古の火祭り行事に、1600年以上前の古墳時代からの伝統を持つ福岡県久留米市の「鬼夜(おによ)」があります。また、1300年以上前の飛鳥時代から続く奈良県御所市の「茅原(ちはら)の大とんど」などがあることから、国語辞書、百科事典などで通説となっている「小正月火祭り行事は宮中三毬杖・左義長行事が起源」説は、ほぼ誤りであることが明らかとなりました。

 本調査による現時点での結論としては、日本のどんど焼き、さらに小正月行事全体の起源の真実は、「どんど焼きの三毬杖・左義長起源説は誤りである」が、調査データが不足していて本当のことは「分からない」というのが、最も科学的な説明だといえます。

 調査データにもとづいて、現時点でいえることは、日本、韓国ばかりでなく、欧州でも同じ新年新春の集落農耕儀礼として同じ行事内容の火祭り行事が行われているということです。
 韓国で行われている「タルジプ焼き」、英国の「インボルク火祭り」、ロシアの「マスレニツァ」、イタリアの「エピファニー・ピニャルル」、ハンガリーの「ブショーヤーラーシュ」、イランなどの「チャハールシャンベ・スーリー」、インドの「ローリ」など、アジア、ヨーロッパ各地で類似する新年新春火祭り行事が行われています。
 つまり、“どんど焼き”行事は、特定地域の特殊な行事ではなく、ユーラシア大陸の各地で広く行われているのです。日本文化の地域性、独自性、民族性などに着目する、これまでの日本の民俗文化研究は根本から見直す必要があると判定できます。日本のどんど焼き行事に関しては、と世界の新春火祭り行事との関係を解明することが、今後の調査研究課題となっているのです。
 世界で行われている新年新春の火祭り行事を歴史的にみると、古代のスラブ文化、ケルト文化の迎春祝祭が起源であるという説があります。
 しかし、その中で最も古い説明が、紀元前に始まり、ユーラシア大陸の中央に位置する古代ササン朝ペルシャの「ノウルーズの新年拝火行事」です。ノウルーズが地理的、時系的にみて、ユーラシア大陸の中央部から東端の日本、西端の欧州に伝播した可能性があり、現時点で最も有力な仮説としておきます。
 詳細については、「考察編」に調査分析の結果を記述しております。

 

(7)暦法の変遷により様々な新年、新春を迎える行事が混在

 日本では、新暦、旧暦の大正月・小正月、旧暦の立春新年(節分年越し)などいくつもの新年行事が混在して、そのたびに人々は厄払いやこの一年の幸福を願う予祝行事を繰り返すなど“生活文化の混乱”がみられます。調査によると、この混乱は太陰暦、太陰太陽暦、太陽暦など古代からの暦法の変遷によって発生しているものです。
 日本では、古代から現在に至るまで、太陰暦、太陰太陽暦、グレゴリオ太陽暦など暦法が変わりました。そのたびに、古代の立春正月から太陰太陽暦の新月正月・満月正月、太陽暦正月など新年への変わり目が変遷してきました。それぞれの正月行事には生活感情に根差した大切な意義がありました。このため暦法が変わっても人々は、古い行事を廃絶することができずに、旧暦、新暦の大正月、小正月などのいくつもの新年行事が現代まで続いています。大晦日とは別に立春前日の節分に年取り・厄払いを行うのも立春正月の名残といえます。
 新年行事の“混乱”と言っても、厳寒期で家の中に閉じこもりがちな時期の暮らしの中での祝祭は、「寒気払い」の意義もあり、むしろ積極的にいくつもの新年行事を、暮らしの中の楽しみとしてきたと思われます。

   様々な新年行事があるなかで、小正月行事は現在でも旧村落共同体を単位として、全国で盛大に行われています。旧暦で暮らしていた(江戸時代以前)農耕民としての日本人にとって、この1年の豊穣を、立春ころの新年最初の満月と焚き火に祈る「満月正月(旧暦1月15日)」または「望正月」は、最も重要な年初の予祝行事であるからだと考えられます。その慣習が現代にまで引き継がれています。

   新春の豊穣の祈りは、集落の農民が集い、必ず共に行うことが大切でした。その理由は、稲作が農村の中心だった時代には、稲作の水利や田植え、稲刈りなどの営みは、農民の相互扶助(結い)によって支えられていたからです。

 そのため新春を迎え、農作業が始まる時期になると、集落の人々が集まって心を一つにして、この一年の豊作、防災、幸福を祈るのです。その祈りは、新月で真っ暗闇の元日ではなく、小正月の夜つまり「新年最初の満月の夜」でなければならなかったのです。1月1日の元日は個別の家庭単位で祝い、15日の小正月は集落の人々が総出で、満月と神火に祈りを捧げ、新春と新年を盛大に祝っていたのです。

 しかし、明治政府の暦法変更により旧暦の年中行事が新暦に移行させられたため、現在では「真っ暗闇の小正月行事」となってしまい、本来の行事の趣旨が損なわれたままとなっています。
 暦法変更による混乱は、年取り行事にも見られ、全国的には元日とは別に立春前日の節分に、昔の「立春新年」の名残として、年取りの豆を食べる風習が残っています。長野県飯田市周辺の風習では、12月31日(大晦日)にお年取り料理を家族で食べ、1月6日に六日年(むいかどし)として、朝か夜に年取り魚のイワシなどを食べます。さらに1月14日の小正月の前日にも正月と同じようにお供えを供えて年取りを行います。この日はお年取りのあと、集落単位でホンヤリ(どんど焼き)を行い、一年の五穀豊穣、家内安全などを祈願します。飯田市周辺では、節分の年取りとは別に歳末から1月中に3回の年取りが行われていることになります。

(8)小正月行事の背景には国際的な共通ルーツが存在する可能性

 どんど焼きや関連する地方の小正月行事に関して、全国・国際的なデータ分析を基にした調査の結果から考察しますと、これまで、どんど焼きは、鄙びた農山漁村の野卑な風習と思われていましたが、それは文化的な偏見であることが明らかになってきました。
 実際には日本の小正月行事は、国際的な背景と広がりを持った集落農耕儀礼であり、その背景には少なくともアジア・ヨーロッパ=ユーラシア大陸に共通する普遍的な農耕文化基盤が存在する可能性があるということができます。少なくとも「どんど焼き」というキーワードにより、世界の民衆文化が一つにつながる可能性があります。
 デジ研のどんど焼き、そして小正月行事国際調査は「日本文化のルーツとは何か」について、根本から私たちに再考を求める結果をもたらしています。私たちは、これまで事象としての地域の民俗文化行事の周囲に壁を張り巡らし、目に見える事柄の観察に重点を置いてきました。
 しかし、国際調査によって、山深い農山村といえども閉ざされた場所ではなく、時空を超えて世界の農山村とつながりを持っていることが明らかになってきたのです。

 目の前に現れた事象だけを見ていたのでは、「群盲象を撫でる」のことわざにもあるように、現代的な文化研究と呼ぶことはできません。その背景にある見えないけれど、確かに存在する本質をどのように究明するのか。現象主義を排して、地方の民俗文化の背景にある真理を求めるセマンティックな分析研究のあり方が、今求められています。この分析が進めば、世界の新春・新年を迎えるための火祭りは一つに統合される可能性があります。デジ研は「民俗文化研究のパラダイムを転換するときが来ている」と提唱いたします。

(9)小正月行事は、国連SDGs(2030年アジェンダ)を先取りする世界の文化遺産

 以上の調査結果、特に(3)の結果を踏まえ、私たちは、調査報告の平成29年版において、日本の小正月行事の現代的な意義付けをこめて、
「小正月行事は地域住民が集落の持続可能な発展を願い、コミュニティの繁栄と生命の再生への祈りを儀礼化した地域文化遺産」
と定義いたしました。
 国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)である『持続可能な開発のための2030アジェンダ』は平成28(2016)年、スタートしました。私たちは、これまでの世界調査を踏まえて、「日本の小正月行事そして世界の新春を迎える火祭り行事は、国連SDGsの趣旨を先取りした世界民俗文化遺産」ということができます。この文化遺産には国連SDGsの達成には、住民生活の基礎的な地域単位である集落を単位とすることが重要であり、SDGs達成に必要な3つの課題(集落の(自立的)繁栄、住民の健康、生命の再生)が明確に示されています。

 イランの新年行事「ノウルーズ」は2009年にユネスコ無形文化遺産に登録されましたが、私たちは、日本の小正月行事もノウルーズと同等以上の文化性と精神性を持っていると言わなければなりません。すなわち、日本の小正月行事は、速やかにユネスコ無形文化遺産に登録されるべき、非常に高い文化価値を有しているといえます。
 さらに、現代のテロと暴力、不寛容に満ちた世界情勢のなかで、世界の人々が、国家、民族、宗教の壁を越えて、新年新春の火祭り行事を通じて、「地域コミュニティの繁栄と生命の再生へ、そして平和と幸福の祈り」を潜在的な共通価値として共有しています。
 どんど焼きで確認されたのは「One Prayer One World(一つの祈りで世界は一つに)」というテーマです。「どうか、ずっと豊かで平和な世の中が続きますように。みんなが幸せでありますように」-それが世界のどんど焼き火祭りの共通の祈りです。このことは、「世界のどんど焼きの祈りにこそ、人類の和解へ解決の糸口が見つかる可能性がある」と私たちは提起いたします。

(10)ユネスコの無形文化遺産の登録に矛盾

 ユネスコ無形文化遺産の会議で2018年11月、日本が提案した「来訪神:仮面・仮装の神々」が正式にユネスコ無形文化遺産に登録されました。地域資料デジタル化研究会の国際調査によると、欧州各国では、日本と同じ趣旨と姿をした新年仮装行事であるクランプス(Krampus)、「エブラルンのスカブ」をはじめオニなどに仮装した来訪鬼(精霊)行事が広く行われ、個別にユネスコの無形文化遺産に登録されています。
 デジ研の調査によれば、世界の来訪神は各地の集落共同体を単位とした、厄払い、悪魔払い、子どもの健全育成、家内招福のための一つの共有された民俗文化です。欧州の「クランプス」は日本の来訪神「ナマハゲ」などと同様に、年、季節の変わり目に恐ろしい仮面をつけて出現し、「子どもたちの怠惰を戒め、良い行動をするよう教える」来訪者です。
   ところが、ユネスコは、類似の世界各地の類似の“来訪鬼(精霊)行事”を個別に文化遺産登録しています。これは個々の文化遺産の価値判断に垣根を張り巡らし、さらに国際理解を歪め、来訪神をテーマとした国際文化の共有、交流の可能性を損ねる恐れがあります。

 デジ研の調査によると、日本や欧州の“来訪鬼”の様相は、どれも角と牙を持ったオニ様の異形で、ふさふさ(シャギー)の毛皮または蓑(みの)状の外衣に包まれていることが、共通項目として明らかになりました。防寒形態の衣装により、どこか北方圏に共通のルーツが存在していることが推測できますが、起源は謎に包まれたままです。
 「宮崎のカセドリ」はユネスコ無形文化遺産となりましたが、それ以外にも岩手、山形、宮城の3県に類似のカセドリ行事が存在し、同じ厄払いと家内安全の祈りの心を共有しています(デジ研調査データ参照)。特に山形県上山のカセドリは、ユネスコ文化遺産に登録されたオーストリアの“仮装精霊”「エブラルンのスカブ」に外見、行事趣旨ともほぼ類似しています。
 上記の「上山のカセドリ」・「エブラルンのスカブ」の事例ばかりではありません。ユネスコでは、韓国が申請した小正月行事「東アジアの綱引き」は無形文化遺産として登録されていますが、類似の小正月行事である日本の「綱引き」は無形文化遺産から除外されています。2017年に無形文化遺産に登録されたスイス・バーゼルの「カーニバル(謝肉祭)」はヨーロッパ各国をはじめ、キリスト教カトリック文化圏の世界各地で、仮面仮装のパレードなど同一行事が行われていますが、なぜか「バーゼルのカーニバル」だけが無形文化遺産とされています。

 どうしてこのような混乱が起こるのか。文化庁公式サイトで「無形文化遺産保護条約に関する特別委員会 」の公開情報にその答えが記されています。

1.無形文化遺産保護条約に対するわが国の基本的考え方
  • 我が国は,既に文化財保護法に基づき,重要性の高い無形文化遺産に関しては,国による指定等を行い,保護措置を講じている。一方,(ユネスコの)「代表一覧表」は,無形文化遺産に対する認知の高まりと多様性の尊重を目的として作成されるものであり,世界遺産とは異なり,専門機関による価値の評価は行われない。
  • このため,「代表一覧表」への記載の有無によって,我が国の無形文化遺産の価値には何ら影響はない。
  • 「代表一覧表」への記載に係る我が国の提案候補は,「重要無形文化財」,「重要無形民俗文化財」及び「選定保存技術」を対象とし,その中から順次選定を行う。
    将来的には,記載基準に適合し提案可能なもの全てが「代表一覧表」に記載されることを目指す。
2.提案候補の具体的選定方法
     
  • 日本の文化的多様性を示す効果的な選定を行うため,「重要無形文化財」,「重要無形民俗文化財」及び「選定保存技術」のそれぞれから選定を行うこととする。
  •  
  • 文化財の特徴及び指定件数に基づき区分を設定し,各区分の中では,原則として,指定の時期が早いものから順に選定する。
  • 以下略
(平成20年7月30日付け公開文書による) (https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/bunkazai/hogojoyaku/unesco/besshi.html)

 上記の説明でユネスコの無形文化遺産が混乱する理由は明らかです。無形文化遺産にどのようなものを提出するかについては,各国の判断に委ねられているうえに、専門機関による価値の評価は行われないのです。
 ここに類似行事が国ごとに別個の行事として扱われ、類似行事が文化遺産であったりなかったりする混乱を引き起こす原因があると思われます。

   地域資料デジタル化研究会の世界調査によれば、キリスト教文化圏の春の祭典カーニバルをはじめ、新春の火祭りなど年や季節の変わり目に地域社会で行われる民俗行事(無形民俗文化)は、すくなくともアジア、ヨーロッパのユーラシア大陸では、国境や民族の壁を乗り越えて共通の祈りと、共通の表現形態をもって、各地の集落を単位に行われています。そこには世界人類が国家や民族の壁を乗り越えて相互理解と融和の糸口が見いだせる可能性があります。

 目の前に現れた奇怪な仮面や衣装だけを見て、「わぁ、これは珍しくて貴重だね」と文化遺産の判定をすることは、科学的な文化研究と呼ぶことはできません。その背景にある見えないけれど、確かに存在する本質をどのように究明するかのか。現象主義を排して、地方の民俗文化の背景にある真理を求める分析研究のあり方が、今求められています。

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【ユネスコ無形文化遺産の代表リストと、その優れた保護慣行の登録内容一覧】
the Lists of Intangible Cultural Heritage and the Register of good safeguarding practices
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【小正月行事を持続可能な開発のための教材とするプランの提案】


 以上の観点からは、「小正月行事どんど焼き」は現在の教育現場で課題となっている「ESD(Education for Sustainable Development=持続可能な開発のための教育)」を最も具現化した地域教材ととらえることができます。
   実際に日本全国で小正月行事はの主役は小中学生であります。小正月行事を教材化するプロセスは次の通りです。
 毎年自分たちが先輩たちから継承し、実践している身近な地域の伝統文化行事を(1)科学的に調査分析し、記録に残し、行事に込められた意味、願い、祈りを知る (2)自分たちの地域行事を国内、世界の類似行事と比較する ー この二つの学習活動を行います。地域資料デジタル化研究会の「小正月行事どんど焼きの国内、世界調査」は、以上の調査学習のために基礎データを無償提供しています。
 「世界の人々は平和と豊穣を求める一つの祈りでつながっていること」。子どもたちがその理解に到達すれば、持続可能な開発のために何が大切であるかを学ぶばかりでなく、人類のための平和教育にとって最高の地域教材と言えるでしょう。
 人類が民族や国境の壁を超えて、一つの祈りでつながっているのに、なぜ人々は争い、殺しあうのか。子どもたちは、自分たちの身近な伝統行事をみつめながら、その根源的な答えに近づいていくことができます。その詳細については、本調査結果の「考察編」をご覧ください。
 当研究会では、学校教育における小正月行事の教材化プランを作成して無償公開しておりますので、ご利用ください。
教材化プランのPDF文書はこちらからダウンロードできます。
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<本サイト収集データの分析手法と公開趣旨について>

 収集データは、そのイベントの意味、属性などについてセマンティック分析を行い、イベントの分析データと分析考察ドキュメントを、デジ研のアーカイブサイト「甲斐之庫」において、電子記録として保存、一般の学習者向けに無償ネット公開するまでの一連のデジタル資産管理を行っています。
 収集された行事データは2021(令和3)年1月の時点で約680件(内訳日本国内600件、国外80件)となり、「地域、実施日、名称、場所、参加者、実施内容、趣旨、起源」の属性別に分析・抽出し、表形式で比較しました。このキュレーションにおいて、報道機関などのニュース記事を主な情報資源とする理由は、原則5W1Hのフォーマットで作成され、編集段階でデータとしての内容の正確性も担保されているためです。
 世界の民俗文化行事である「どんど焼き等新年・新春を祝う火祭り」に関して、キュレーション成果データの全面公開により、関心ある人ならば誰でも高品質のデータを利用しながら、世界規模の調査比較研究が可能になったことは画期的といってよいでしょう。学校における地域文化学習の教材としてお薦めする理由がこの点にあります。

   デジ研が公開する大量の実証データは、「世界の新年新春火祭り行事」に関する通説、定説を根本から覆す可能性を秘めています。これらの実証データは本サイトの訪問者に、どんど焼きの詳細を調べ、検討し、分析する手がかりとなり、訪問者が「どんど焼きの謎」について、自分の意見、答えを導き出し、さらには民俗文化の新たな通説・定説を生み出す材料となるでしょう。まず、本サイトのデータをじっくりと読み込むことです。

 本会の調査の範囲内では、日本及び海外の新年、新春を迎える火祭り行事、並びに関連行事に関する全都道府県、世界各国の詳細な実施状況の調査集計は世界で初めてであり、またインターネットで世界公開(charset=UTF-8)されたのも初めてです。

 デジ研では、今後の「大正月・小正月行事研究」をより深めるために、47都道府県と関連する世界調査データをすべて公開することとしました。
 本調査の公開データは、これまでの地域文化の研究に張り巡らされていた偏見や国境の壁を取り払い、ものごとの見方や捉え方を根本から転換させる可能性を秘めております。
「国内のどんな山深い里の民俗行事であっても、世界共通のルーツとつながっている」
 本調査をきっかけに始まった「パラダイム・シフト」に挑戦するのは、もしかしたら、このサイトを閲覧しているあなたなのかもしれません。


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(調査・データ編集:NPO地域資料デジタル化研究会デジタルアーカイブ班 担当・井尻俊之)

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